ネームの直しのチェックをするために休日だが吉野の家に向かって
いた。
きっとあと少しでまともに会えないほど忙しくなってしまう。
なんとかネームを完成させ、夜には吉野とくっついていたい。
そんなことを考えながら吉野の家のドアを開けると、
思ったより静かな家に嫌な予感が渦巻く。
早足で廊下を歩きリビング開け、
予想通りの光景に思わず溜め息をこぼしてしまった。
「寝てやがる・・・」
リビングでネームを描いていたら眠くなったのだろう。
床には紙が散乱し、当の本人はぐっすり眠っていた。
ひとまず荷物を置くと、
ジャケットを脱ぎ吉野の横に腰を下ろした。
「ん?」
落ちていた紙の中に1枚だけ緑のペンで文字が書かれているのを見
つけた。
『起きるまで起こすな』
ぴきっとより一層眉間の皺が深くなったの感じる。
今すぐにでもたたき起こしてやろうかとも思うが、
ぐっすりと安心しきったように眠る姿につい頬が緩んでしまうのも
事実で。
優しく髪を撫でると甘えるようにこちらに体を預けてきた。
まぁ、今日ぐらい大目に見てやるか・・・。
しばらくの間髪を撫でたり頬を触ったりしてたが、
だんだん自分まで眠くなってきてしまった。
家でやろうとした仕事は少しあるが、どうにかなるだろう。
そこでふと、吉野のメモを思いだし自分も1枚紙を拾った。
伝言を書き終えると、
ソファーの上にあった枕を引っ張り床に置く。
枕に頭を沈め隣にいる吉野の匂いを感じながら目を閉じた。
「おやすみ」
****
「・・・・・・っ・・・ん、ぁれ」
ぼーっとする頭で吉野は重い瞼をうっすら開けた。
いまいち状況が読み込めずいると、背中に触れる何か暖かいもの。
「?」
体を起こし後ろを振り向くと羽鳥が寝息をたてていた。
・・・なんでトリがいるんだ?
そういえば来るって言ってた気もするような・・・しないような・
・・・・・。
まぁいいやと、あくびをし目をこすりながら視線を戻すと、
床に見慣れた文字が書かれた紙が落ちていた。
『起きたらすぐ起こせ』
だったら起こせばいいのに・・・、相変わらず俺に甘いなー。
でも、久しぶりに見た羽鳥の寝顔は少し幼く見えて。
起こさないようにそっと髪を撫でた。
「ま、だからって起こさないけどな~」
どうせ起きたらすぐ仕事の話だ。今はもう少しだけ、このままで。
そっと羽鳥のお腹に頭を預け、
自分もまた寝ようと目を閉じると玄関の方から物音が聞こえた。
チャイムを鳴らさなかったって事は・・・。
「も・・・もしかして」
「千秋、遊びにきたぞー!」
「はは・・・は、いらっしゃい・・・・・・」
****
「で、この仕事人間は寝てると」
「・・・うん」
かいつまんで今の状況を説明すると、
珍しく柳瀬は何も言い返さなかった。
いつもならトリに何かしら文句を言うのに。
「ふーん・・・。ねぇ千秋、その紙使ってもいい?あとペンも」
「別にいいよ」
横に落ちていた紙を拾い、ペンと一緒に柳瀬に渡す。
絵でも描くのかなと、吉野は相変わらず寝ころびながら考えた。
****
柳瀬とたわいもない話をしてると、「できた」
と後ろから声が聞こえた。
「何描いてたん?」
気になって起き上がると、振動で羽鳥の瞼が動く。
「ん・・・っ」
「あ、ごめん。トリ起こしちゃった?」
「・・・・・・・・・なんだ、起きていたのか・・・。
だったら起こせと紙に書いて・・・・・・・・・なぜお前がいる」
すでに寝起きで不機嫌そうな顔をますますしかめ、柳瀬に言った。
「別にいいだろ。俺は千秋に会いに来たんだし」
「・・・・・・はぁぁ」
まだ頭がはっきりしないのかぼーっとしている羽鳥の後ろに、
柳瀬が紙を持ち上げた。さっき出来たと言っていた物だろう。
なになに・・・、羽鳥のば・・・・・・っっっ!!!
『羽鳥のバーーカ』
「どうした吉野?真っ青な顔して。何かあるの「
あああぁぁあああ!!!!そっち見るなぁぁあ!!」
変に思った羽鳥が後ろを向こうとしたが、
とっさに吉野が頭に抱きつきそれを阻止した。
「??」
「ちょっと千秋何してんだよー」
「それはこっちのセリフだぁあ!」
「別にいいじゃんか」
「ダメに決まってんだろ!絶対怒る!」
「・・・・・・おい、頭痛いんだが・・・」
苦しそうに吉野の手から逃れようとするが、
柳瀬がうれしそうに紙を見せびらかせてくる。
「ダメ!!トリ我慢しろ」
さらに強く頭を抱きしめ、羽鳥の視界に紙を入れないようにした。
「だから千秋邪魔すんなって」
「優が悪いんだろー!もういい加減にしろよ」
「俺は千秋が思っていたことを代筆しただけだしね」
「俺を巻き込むなぁぁあ!!」
「・・・・・・・・はぁ」
羽鳥は自分の上で飛び交う会話にげんなりしつつも、
今のこの吉野に抱きしめられている体勢は悪くないとひっそり思う
羽鳥だった。
ところで、柳瀬は何を書いたんだ?
5巻へつづく!