最初は ただただ驚いた。

「初めまして、小野寺律といいます」

高校の時突然「好きです」と俺に告白してきた後輩。
一度も話したことがないのに、ましてや男同士なのに好き？
っは、笑える。
だったら俺がその幻想をぶち壊してやる。・・・・・・そう、思ってたはずだったんだ。



あいつと会うのが楽しみになった。

その笑顔をずっと見ていたいと思った。

これが人の温かさなんだ。

やっと俺にも大切だと思える人ができたんだ。
ーーーなのに・・・



あいつは俺の前から姿を消した。


あぁ、幻想をぶち壊されたのは、俺だったんだ。



＊＊＊＊

「編集長の高野政宗だ」
「っあ、よろしくお願いします！」
遊びだったやつの顔なんて覚えてるわけ無いよな。
・・・そうだ、きっと俺はこの時を待ってたんだ。
また俺を好きにならせてやる。
その心も、体も全部めちゃくちゃにしてやる。
俺の悲しみを味あわせてやるんだ。


悲しい？


俺は悲しいのか？
考えちゃだめだ。
だってそれが今の俺の生きる理由なんだから。



＊＊＊＊

小野寺と関係を持つのにさほど時間はかからなかった。本当は脅してやってもよかったが、それじゃあ絶望の淵に突き落としてやることはできない。
もっと俺を好きになれ、もっと俺を必要とするんだ。


＊＊＊＊

シャワーをしてきた俺はベットで眠る小野寺の横に座った。髪に触れると重そうな瞼をゆっくり開ける。
「悪い、起こしたか？」
「いえ、大丈夫です・・・」
俺はまたそのさらさらな髪を撫で始めた。
「・・・高野さん、今見た夢の話をしていいですか？」
「？あぁ」
そう言うと、小野寺は遠くを見るようにゆっくりと話し始めた。
「俺、昔本当に大好きな人がいたんです。その人は学校の先輩で、男の人だったんですけど、・・・一目惚れでした。それで俺、我慢できなくて告白してしまったんです。気持ち悪いですよね普通」
「・・・・・・」
「でも先輩は付き合ってもいいって言ってくれて、俺うれしくて。そこからの時間は本当に幸せでした。・・・けど、ある日聞いたんです。「俺たち付き合ってるんですよね？」って。そしたら俺、笑われちゃいました。遊ばれてたんですね、へへっ」

何・・・言ってるんだ。

「それがショックで留学までしちゃって、でも・・・最近考えてしまうんです。本当に遊びだったかなって。・・・都合がいいのはわかってます！でも、それでも大好きだったから。夢の中では一緒にいられるのに」

やめろ

「今も俺のせいで傷ついてないかなって おっ・・・ひっく」

そんな目で見るな

「たっ 高野さんってどこか先輩に似ている気がするんです。だ・・・だから、だから、ごめんなさい」

泣かないでくれ。

「せ・・せんぱい、すきになって、ぐすっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!」

小野寺はただ謝り続けた。
止まらない涙が頬を伝い、枕を濡らしていく。

俺にその涙を拭う資格はあるのか？


「ひっく、変な話してすみませんでした。・・・・・・え」

なぜか小野寺は驚いたように俺の顔を見つめた。

「どう・・・して、高野さんが泣いているんですか？」


・・・・そんなの、俺が聞きたい。
今まで俺は何をしていたんだ。
どうしてこいつを信じようとしなかったんだ？

裏切られたとしか思わず、恨むことしかしなかった。

なのに こいつは・・・・・・！

「高野さん・・・？」
「お前、今でもその先輩に会いたいか？」
「・・・・・・先輩が、会って・・くれるなら」
「・・・そうか。ほら、疲れただろう。もう寝ろ」
「・・・はい」


少しすると規則的な呼吸が聞こえてきた。


戻れるのか あの時に

戻りたいのか 俺は？

ただわかるのは
あの頃のようなこいつの笑顔が見れるなら
俺は なんだってする


だって 好きなんだよ

お前がどうしようもなく 好きなんだ


「ごめんな、律」




fin