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世界一初恋にどっぷりハマッてる二次創作サイトです。
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※モブが出ます


何度来ても慣れない所は誰にだってある。
吉野にとって丸川書店はそのうちの1でもあった。自分自身会社勤めというものをしたことが無いせいか憧れもあるが、どうもこの空気が得意ではなかった。
まぁ、普段の引きこもり生活が原因の気もするが。

帰りたい.....。
先程から心の中で同じ言葉を繰り返しているが、目の前を歩く羽鳥が絶対許してくれないだろう。
今日は来年アニメ映画化する俺の作品の打ち合わせで呼び出された大幅に話を変えなければ好きに作ってくれて構わないのが正直な気持ちだ。原作者が変にいろいろ注文したらアニメ会社の方だって作りにくいに決まっている。それに羽鳥に任せとけば絶対大丈夫だ。
........と、昨日から何十回も説明してるのに引きずられるように連れてこられてしまった。

「はぁぁぁ....帰りたい。トリぃ~やっぱ俺必要ないってー」
エレベーターで2人きりだからか吉野は諦め悪く羽鳥を説得し続けた。
「ここまで来て文句を言うな。脚本の方がどうしても1度は先生と話がしたいと言ってるんだ」
「でもどうせ俺うまくしゃべれねーし....」
「プロなんだから自分の作品には責任もってやれ。相手は真剣に良いものを作ろうとしてくれてるんだ」
「.....それはわかってるけど」
壁にもたれ掛かりながらぶーっと頬を膨らませた。それを見た羽鳥が呆れたように溜め息をつき、片手で吉野の頬を掴むとぶっと空気を出した。
「安心しろ。大人数はこちらとしても都合が悪いから、今日は脚本家の方1人しかいない。性別のことも事前に話してあるし、とても気さくな良い人だ。俺だってフォローするから少しだけがんばってくれ」
そっと大きな手が俺の頭の上に乗せられた。
確かに普段から仕事でも私生活でもトリに甘えっぱなしだ。今日だってこの作品を1番よく知っているのは自分なのだから、これは俺にしかできないこと。
「....わかった。上手く伝えられるかわかんないけど、やれるだけがんばる」
自分にできる精一杯のことをしよう。

チンッとエレベーターが到着を告げる音が鳴った。
羽鳥は仕事モードの表情を少し崩し吉野に言った。

「それでこそ、吉川千春大先生だな」





****

「は...っは、初めまして...吉川千春です」
出だしで思い切り噛んでしまったがなんとか挨拶をすることができた。
だってそうだろ。こんなイケメンとは聞いていないのだから....!

羽鳥ぐらいの高身長に、茶髪に黒のメッシュが入った髪型。服も雑誌に紹介されていそうな、俺とは程遠いおしゃれな格好。それにモデルと言われてもおかしかないオーラがあった。
一瞬で苦手なタイプな人かとも思ったが、トリが言っていたことは本当だった。
「俺、以前から吉川先生の作品が大好きで、漫画も全種類初版で持ってるんです!個人的にも今日が楽しみで昨日は眠れませんでした...」
ファンだと言ってくれることもうれしいし、そんな子供のような笑顔で話されるとこっちまでどこか恥ずかしくなってしまう。
「そんな.....ありがとうございます」

そして極めつけが。

「名字...『葉鳥』なんですね」
「はい、本名です!だから羽鳥さんと初めて会った時も名前のおかげか会話も弾んでとても良い時間を送らせていただきました」
頭をかきながら照れたように笑った。
「へー、『はとり』って珍しいからトリ以外で初めてかもしれません」
「....今は仕事中だぞ」
トリと言ったことを気にしてか小声で羽鳥に怒られてしまった。
「あっ....ごめん」
「....そういえば、お二人は幼なじみなんですよね。羽鳥さんから聞きました」
そんな話もしたのか。プライベートのことを話すなんて珍しい。
「そうなんです。だからつい甘えちゃって...」
「でも幼なじみと仕事ができるって少し憧れます。仲がほんと良いんですね」
「え!?い....いや」
つい否定してしまった。
でも仲が良いとか、なんか俺達の関係を見透かされてるみたいで恥ずかしいというか....、昨日の夜のこと思い出...し....。
って仕事中になに考えてるんだ~!!

「....では葉鳥さん。そろそろ吉川先生の緊張もほぐれたみたいですし、映画の話に入ってもいいでしょうか?」
「っあ、そうですね。すいません、長々しゃべっちゃって...」
「......」
またトリに助けてもらってしまった...。本当に俺1人では何もできないな。
葉鳥さんは鞄から書類を出し数枚俺の方に見せてきた。
だめだ、今は反省より仕事をしっかりこなさなくては。
吉野は真剣に1枚1枚に目を通し始めた。




****


今回アニメ映画にしてもらうのは俺が以前短期連載していた作品だ。トリ曰く、すごい人気があって全2巻で完結して時は手紙や電話が殺到したらしい。でもどうしてもこの話はそこで終わらしたくて、読者の人には申し訳なかったけど続編を描くことはできなかったのだ。
前の作品にもかかわらず根強いファンの人達のおかげでこうやって映画化にも繋がり、感謝してもしきれない。
「ーーーそれで、全体は原作通り進めていき、途中ここで新しい話も組み込めたらな、と思ってるんですか...?」
「はい....大丈夫だと思います。でも次に繋げたいからヒロインとどうやって会いましょう?」
「はい。そこが矛盾しないように、こんなエピソード入れようと思ってるんですけど」
「なるほどー....、すごいですね葉鳥さん」
アニメやドラマ化の時もいつもトリに任せてたから知らなかったけど、こうやって脚本家の一対一で話すと自分も勉強させられることが多かった。やっぱり人との会話で気付いたりできることは多いよなー。
「ねぇねぇ、トリはどう思「吉川先生、今は仕事中です」
「す...すいません」
またついトリと呼んでしまい怒らせてしまった。笑顔が怖い。
だからってそんなに怒らなくてもいいじゃないか。
それに葉鳥と羽鳥じゃややこしいかなって気を使ってんのに....。

だったらーーー、


「芳雪」


「っ....」
「芳雪はどう思う?」
名前なら文句は無いだろう。
どうだ、と仕返しのつもりで羽鳥に尋ねたがなぜか返事が返ってこない。
また怒らせてしまったか?
少し上へと視線を向けると予想外の表情をしていて、ついこちらも間抜けな声をあげてしまった。
「........よし...ゆき..?」
いつものポーカーフェイスからは想像できないほど顔を赤く染め、手で口元隠しながらばつが悪そつに視線を逸らしていた。
数秒無言の状態が続くと羽鳥は突如すっと立ち上がった。
「....すみません、俺新しいコーヒー取ってきます」
それだけ言い残し早々に部屋から出ていってしまった。
あんな顔俺でも初めてかもしれない。

「吉川先生大丈夫ですか?....顔真っ赤ですよ」

「えぇぇぇええ?だ...大丈夫です」
トリのあほ。こっちまで恥ずかしくなってしまったじゃないか。
だがそんな俺を見て葉鳥さんはなぜか楽しそうに笑った。
「....ははっ、お二人して顔を赤くしてほんと仲がいいんですね」
「え......」
きっと今自分は耳まで真っ赤だろう。
でも、仲がいいと言われるのは恥ずかしくもあるが嬉しく感じてしまう自分もいた。吉野は眉尻を下げ、へりゃりと笑って言った。
「はい......大切な、幼なじみなんです」
今は恋人でもあるけど。


俺にとってかけがえのない存在だ。






まぁ、帰宅後羽鳥に仕返しとばかりに「千秋」と連呼されたのは2人だけのお話。




fin

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