「た 高野さん離してください!!」
「無理、1週間お前抱けなかったんだぞ」
「だだだだだっ抱くとか、知りませんよそんなの!」


ここ最近で1番酷かったであろう修羅場が終わり、久しぶりに家に帰れたかと思った矢先なぜか俺は高野さんに襲われている。確か車に乗せられて、家に着いて鍵を開けようとしていたらいつの間にか今の状況だ。
ダメだ、疲れすぎて思考回路が死んでる。
そんなことを考えている間に、ベッドの上に組み敷かれていた。
「ちょ、どこ触って!?てか、脱がせようとすーるーなー!」
「大人しくしろ」
「誰のせいでこんな暴れてると思ってんですか?」
キスしようと顔を近づけてきた高野の口を手で押さえガードした。
今日は絶対ながされるものか!
「ほー・・・、今日は一段とツンデレだなお前」
「誰がツンデレですか!?いいから今日は」
続けようとした言葉はいつの間にか自由になっていた高野の唇によって塞がれた。熱い舌が口内を掻き回し体の力が抜けていくのを感じる。
「ぅ・・・ぁん・・・・・っー!!」
だが小野寺は高野の肩を掴み、ガシッと自分から引き剥がした。
「・・・・・・なんで?」
「はぁ・・・はぁ、だから今日はそういうことっ」
見上げた先の高野を見るとなぜか今にも泣きだしそうな表情だった。
「高野・・・さん?」
「俺はずっとお前のこと触りたかった。お前もいやいやながらもいつも俺の事受け入れてくれるからそれでもいいと思ってたんだ。・・・でも、ここまで拒絶されると・・・・・・さすがにキツい」
涙でも落ちてくるんじゃないだろ、その表情に胸が痛くなった。
確かにいつも高野さんには素直に話せなくて、意地ばっか張ってしまっている。
でも違うんです。そうじゃなくて、そうじゃなくて・・・!
「・・・高野さん、疲れてるだろうから」
「え?」
「今回俺のミスで高野さんに迷惑かけてしまったじゃないですか」
そう。渡したと思っていた書類が営業の方に行ってなく、その対応やら何やらでたくさんの人に迷惑をかけてしまった。特に高野さんにはただでさえ忙しい編集長という立場なのに余計な仕事を増やしまう始末だ。
「2、3日まともに寝てないし、・・・その今日は休んで欲しかったんです」
「・・・・・・」
「だから別に高野さんのこと嫌いになったとか、そういうのじゃなくて・・・」
あー、どうして俺は素直に心配ですって言えないんだ!
まだ今回のお礼だってちゃんと言ってないのに・・・。

「じゃあ、寝ればいいんだな」

「ふぇ?」
そう言うと高野は素早く上着を脱ぎ、ベッドの上に横になった。
「ほら、お前も」
「は、はい・・・」
上着を脱ぐ小野寺を見ると、高野はここに来いとでも言うかのように、自分の隣の空間をぽんぽんと叩いた。一瞬迷ったが、ゆっくりとそこに寝転んだ。
「確かに、眠くないって言ったら嘘になるか。心配してくれてありがとな」
大きな手が俺の頭を撫でる。やっぱりよく見ると目には酷い隈ができていた。
「し 心配なんて・・・」
「はいはい。・・・そうだ、俺はお前の言うこと聞いたんだし、なんか俺の頼みも聞けよ」
「頼みって・・・なっなんですか?変なのは嫌ですよ」
目を合わせるのが恥ずかしくそっぽを向きながら話すと、視界の端で小さく笑われた。
「あぁ、簡単なことだよ。今日このまま隣で寝て。あと、明日一緒に朝食が食べたい」
「・・・そんなのよくしてる事じゃないですか。というか、ちゃっかり2つ頼んでません?」
「いいんだよ。だっていつもなら朝帰る帰らないで絶対言い合いになるじゃんか」
「それは・・・」
恥ずかしくて、朝どんな顔をしてればいいのかわからないんだ。
「じゃあそういうことで、寝るか」
高野は1度上半身を起こすと掛け布団をつかみ、小野寺の上に丁寧にかけた。自分もその中に入ると、そっとおでこにキスを落とす。
「~~っ!!」
「顔真っ赤・・・」
くっそー・・・、結局これじゃいつもと同じじゃないか。
高野さんの気持ちに甘えて自分からは何もできない。心配もお礼も、口に出さなきゃすべて伝わるわけがないんだ。

「・・・高野さん」
「なに?」
見上げないと高野の顔が見えなかったため、体をずらし同じ目線にする。
少し緊張するけど、大丈夫。ちゃんと伝えるんだ。
「今日は俺のミスで迷惑かけてすいませんでした」
「まだ気にしてたのか、別に良いって。お前もすぐ対応しただろ?まぁ次からは気をつけろよな」
「はい・・・、あと」
「?まだあるのか・・・・・ーっ!?」
自分でも何でこんなことをしたのかわからなかった。けれど気付いたら高野さんの頭を抱きしめていた。
なんだか今日は素直に言えそうだ。
「あと、ありがとうございました。お仕事お疲れさまです、いっぱい休んでくださいね」
そう言って優しくその頭をなでた。
「・・・・・・ははは、どうしたんお前。疲れすぎて性格変わったのか?」
「そうかもしれません」
「・・・でも、うれしい。ありがとう、律」
「はい。おやすみなさい、高野さん」
高野の手が背中にまわり、その体温だけで心から俺は安心する。


少しでも高野さんの疲れが癒されますように

明日も素直に「おはようございます」って言えますように


そんな事を願いながら、俺もゆっくりと目を閉じた。




fin