吉野に渡すための資料のコピーが終わり、編集部へ戻ると先程までいなかった小野寺の姿があった。他はまだ誰も来ていない。
嵐のような入稿の後は、昼近くから出勤してくる人間も多い。別に気にすることでは無いのだか・・・。
「おい、小野寺」
「あ 羽鳥さん、おはようございます。それ資料ですか?」
ただ・・・ただ、



何なんだそのすごい寝癖は



「小野寺、お前朝ちゃんと鏡見たか?」
「え?あー・・・、今日は朝少し急いでたんで」
だろうな。
「寝癖、すごいことになってるぞ」
「ええぇ!?」
驚く小野寺に鏡を見せてやると恥ずかしそうに寝癖を押さえた。が、手を離すとすぐ、ぴよんっと戻ってしまう。
「っぷ・・くっくっ」
「ちょ 笑わないでくださいよ羽鳥さん!」
顔を赤くしてますます恥ずかしそうにするが、目の前で揺れる寝癖を見てしまうとなかなか笑いが止められなかった。
「はははっ、あーすまん。別にバカにしてるわけではないんだぞ」
ただ、あまりにも寝癖を揺らして歩いてる様子が、俺の恋人にそっくりだったから。
ぷーっと少し頬を膨らましていた小野寺だったが、ふいに俺の顔をじっと見ると嬉しそうに笑った。
「?どうした」
「いや、羽鳥さんがこんなに笑ってるところ見るの初めてで少しうれしいなと」
「そういうもんか?」
「はい!」
確かに、吉野にもよく眉間に皺寄ってる!と言われる。それになんだかんだ小野寺と2人っきりで話す機会は無かったしな。

俺はまた少し笑いながら、ついいつものクセで小野寺の髪に指を通した。吉野とは違う髪質を感じながら撫でていると、小野寺も少し恥ずかしそうに笑った。
「高野さん達が来る前に、水で濡らして直してこい」
「わかりました、あ そういえば、この前高野さんにもこうやって髪直されたんでした。・・・羽鳥さんみたいに優しくないですけど」
「小野寺の事になるとあの人厳しいからな」
仕事でも、きっとプライベートでも。
「・・・でも、やっぱ憧れます。・・・・・・え、やっぱ今の無しです!!忘れてください!」
手を必死に動かして否定する姿に少しかわいいと思いながらも、ぽんぽんっと軽く頭を叩く。
「はいはい」


「ほーー、何を忘れろだって?てか、その手は何だ?羽鳥」


ヤバいと思った時にはすでに遅かった。
「あれー、羽鳥。律っちゃんと何いちゃいちゃしてるのー」
「ダメだよー、羽鳥」

その目で人を殺せるんじゃないかというほどの高野さんの視線から必死に目を逸らしながら、何事も無かったかのように席へ向かう。
「違うんですって!これは」
「って律っちゃん何その寝癖!!あははははっ、かわい~!」
「だーかーら!!」

そんないつものエメ編の景色を見ながら、仕事倍確定雰囲気に小さくため息をこぼした。
あとで高野さんにコーヒーでも奢るか。小野寺の発言も添えて。




fin