千秋に殴られた後の優のお話。
「・・・・・・っ」
頬を触るとじんわり熱くなっていた。 口の中も少し切れているのか血の味がする。
どうしてこうなったんだ?どうして俺じゃダメなんだ?
・・・どうしてあいつならいいんだよ?
「・・・千秋」
****
転校してきて初めて話した隣の席の男子。
『俺吉野千秋、教科書まだ無いなら一緒に見よー』
「・・・・・・ありがとう」
最初はその明るい笑顔に惹かれた。
前の学校でも友達は多くない方だった俺は、 あまりに気さくに話しかけらて驚いた記憶がある。
授業中半分こした教科書を吉野がめくっていく。 今度はその綺麗な手に惹かれていった。 骨格がすごい俺の理想通りで触れたい衝動にかられた。
ちらっと横目で顔を覗くと子供みたいな表情で何かをノートに描い ている。
かわいい・・・
よく見てみるとそれは漫画?のようなもの。 でも男が描くにはひどくかわいらしい女の子が描かれていた。 いわゆる少女漫画な絵。
「・・・ねぇ、授業中何描いてたの?」
授業が終わった後思い切って俺は吉野に話しかけた。
「え・・・・・・も、もしかして柳瀬くん見てた?」
「うん」
恥ずかしそうに顔を赤くする姿がたまらなくかわいくて、 なんかこっちまでニヤけそうになってしまう。
「・・・キモいよな、男がこんな絵描いてて。なんかごめん」
・・・なぜか謝られた。
「っえ?いや、そうじゃなくて。 俺絵上手だねって言いたかったんだけど・・・」
正直な気持ちを伝えると、ぽかんっとした顔で固まってしまった。
「・・・・・・変じゃない?キモくない」
「?あぁ」
「~~っ! そんなこと言ってくれたのトリ以外柳瀬くんが初めてだよ!」
・・・とり?
「名前・・・、優でいいよ。俺も千秋って呼んでいい?」
「うん!」
他人にあまり興味が無い俺が初めて友達になりたいと思えたのが千 秋だった。
話してみると漫画の好みも同じで、俺も絵を描くことを伝えた。
休み時間には友達の多い千秋が1番に声をかけてくれる。 笑顔を俺だけに向けてくれることが本当にうれしかった。
千秋の好きなものは俺も好きになっていた。
俺が好きなものは千秋も好きになっていった。
けれど、千秋の大好きな『トリ』だけは俺は大嫌いだった。
****
あいつと初めて会ったのは転校してきてすぐの昼休み。 俺が千秋と話していると「吉野」 と声をかけながら教室に入ってきた。
「っあ、トリ!ナイスタイミング。 この人が昨日話した転校生の柳瀬優。優、 こっちが幼なじみのトリ」
「紹介するならちゃんと名前を言え。・・・羽鳥芳雪だ、 よろしく」
「・・・・・・よろしく」
もちろんこの時には羽鳥が千秋を好きなことも、 俺自身の気持ちも気付いてなかった。
ただ、気に食わなかったんだ。
あいつの敵対心剥き出しの視線も。
千秋の何よりも嬉しそうに羽鳥を見る目も。
全部。
この頃は10年以上の付き合いになるなんて思いもしなかっただろ うに。
でもその間に俺は千秋を好きになっていった。
今は親友という位置でとりあえず満足だが、 なにせ1番近いはずの羽鳥の気持ちにさえ気付かない千秋だ。 そう簡単にこの関係が壊れるわけがない。
まぁ羽鳥に関しては、あいつが必死で隠しているだけだけどな。
ーーそれもまたすげぇムカつくが。
****
いつの日だったからか、 あいつらがお互いを避けるような日々が続いた。 喧嘩でもしたかと最初は思ったがどこかいつもと違う。
それが原因でか千秋の進行は酷く遅れ、 なんとか入稿したかと思ったら体調を崩したのだ。
「水はここに置いとくから、今日は大人しく寝てるんだぞ」
「うん。優ありがとう」
笑顔を向けてはくれたが熱が結構高く顔色もあまりよくない。 本当はずっと一緒にいてやりたいが、 俺もこれから他の先生の所に行かなくてはならない。
「・・・・・・なぁ、優」
「なんだ?」
「最近トリと会ったか?」
なんでここで羽鳥が出てくるんだよ。
「・・・会ってないよ、てか別に会いたくないし。 それより千秋こそ会って仲直りしたいんじゃないの?」
「うん・・・」
浮かない顔で千秋は頷いた。原因はわからないが、 何か深刻な理由があるらしい。
「言いたいことがあったらいつでも相談しろよ。じゃあ帰るな」
「ほんとありがと。今度なんか奢るから」
「楽しみにしてる」
少し頭を撫で部屋を後にした。
手にはさらさらした髪の感触が残っている。
そろそろこの関係に我慢できなくなっている自分がいた。
欲しがってしまってもいいのだろうか。 もしかしたら今の関係が壊れてしまうかもしれない。
あぁ、これじゃあ羽鳥と一緒じゃねえか。
「・・・仲直りなんかすんなよ」
それから数日後。
あいつらは今までの関係に戻っているようだった。
けれどある日を境に・・・そう。 あれは千秋の誕生日に温泉へ行った日。 千秋はわかりやすい嘘を言って夜1人で帰ってしまった。 おそらく羽鳥に会いに行ったんだろう。
この数ヶ月で明らかに2人の間の空気が変わっていた。 ただの思い過ごしと思いたかったが、 それは確信へと変わっていく。
それは目だ。
とにかく千秋はわかりやすい。好きなものは好き。 苦手なものは苦手。 長い付き合いで目を見ればなんとなくわかるようになった。
その目は羽鳥を見る時、少女マンガの主人公のようだった。
憧れでもあり、それ以上に好きでいて、相手に見て欲しくて、 触れたくて・・・。
ーー俺と同じなんだよ。
才能のある千秋が羨ましい時期もあった。
だったら俺はその才能を最大限引き出せるような人間になりたい。
俺の生きる道をハッキリ決めた。
唯一の親友という立場になれて、でももっと傍に行きたくて。
けれど所詮親友は幼なじみに勝てないのか・・・。
****
目を覚ますと見慣れた天井が広がっていた。 夜なのかあたりは暗い。いつの間にか寝てしまっていたらしい。
起きあがる気力も無く、左へ寝返りをうった。 窓からさすうっすらとした光だけが伸びている。
『・・・よくわかんないけど、トリじゃないとダメみたいなんだ』
「っ・・・」
千秋は羽鳥を選んだ。
いや、本当はずっと前から決まってたんだ。 千秋自身が気持ちに気付いていなかっただけ。
やばい、視界が歪んでいく。
溢れた涙は頬を伝いゆっくり落ちていった。 止めようとすればするほど、想いも思い出も一緒に溢れてきて。
悔しくて、寂しくて、辛くて、でも。
「好きだ・・・」
それ以上に溢れる好きだという気持ちをどうすればいい?
「ぐ・・・・・っ好きだ、千秋・・・愛してる。好きだ・・・・ 好きだ」
止まらないなら流してしまおう。
あいつらの前では死んでも泣いてたまるか。
だから今だけ。
誰も見てない今だけは・・・。
「ぅ・・・っぁ・・・・・あぁァあああああぁっ・・・」
確かめさせてくれ。
俺がどれだけお前のことを好きだったかを。
この涙がきっと証明してくれるから。
「好きだよ・・・千秋」
fin
頬を触るとじんわり熱くなっていた。
どうしてこうなったんだ?どうして俺じゃダメなんだ?
・・・どうしてあいつならいいんだよ?
「・・・千秋」
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転校してきて初めて話した隣の席の男子。
『俺吉野千秋、教科書まだ無いなら一緒に見よー』
「・・・・・・ありがとう」
最初はその明るい笑顔に惹かれた。
前の学校でも友達は多くない方だった俺は、
授業中半分こした教科書を吉野がめくっていく。
ちらっと横目で顔を覗くと子供みたいな表情で何かをノートに描い
かわいい・・・
よく見てみるとそれは漫画?のようなもの。
「・・・ねぇ、授業中何描いてたの?」
授業が終わった後思い切って俺は吉野に話しかけた。
「え・・・・・・も、もしかして柳瀬くん見てた?」
「うん」
恥ずかしそうに顔を赤くする姿がたまらなくかわいくて、
「・・・キモいよな、男がこんな絵描いてて。なんかごめん」
・・・なぜか謝られた。
「っえ?いや、そうじゃなくて。
正直な気持ちを伝えると、ぽかんっとした顔で固まってしまった。
「・・・・・・変じゃない?キモくない」
「?あぁ」
「~~っ!
・・・とり?
「名前・・・、優でいいよ。俺も千秋って呼んでいい?」
「うん!」
他人にあまり興味が無い俺が初めて友達になりたいと思えたのが千
話してみると漫画の好みも同じで、俺も絵を描くことを伝えた。
休み時間には友達の多い千秋が1番に声をかけてくれる。
千秋の好きなものは俺も好きになっていた。
俺が好きなものは千秋も好きになっていった。
けれど、千秋の大好きな『トリ』だけは俺は大嫌いだった。
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あいつと初めて会ったのは転校してきてすぐの昼休み。
「っあ、トリ!ナイスタイミング。
「紹介するならちゃんと名前を言え。・・・羽鳥芳雪だ、
「・・・・・・よろしく」
もちろんこの時には羽鳥が千秋を好きなことも、
ただ、気に食わなかったんだ。
あいつの敵対心剥き出しの視線も。
千秋の何よりも嬉しそうに羽鳥を見る目も。
全部。
この頃は10年以上の付き合いになるなんて思いもしなかっただろ
でもその間に俺は千秋を好きになっていった。
今は親友という位置でとりあえず満足だが、
まぁ羽鳥に関しては、あいつが必死で隠しているだけだけどな。
ーーそれもまたすげぇムカつくが。
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いつの日だったからか、
それが原因でか千秋の進行は酷く遅れ、
「水はここに置いとくから、今日は大人しく寝てるんだぞ」
「うん。優ありがとう」
笑顔を向けてはくれたが熱が結構高く顔色もあまりよくない。
「・・・・・・なぁ、優」
「なんだ?」
「最近トリと会ったか?」
なんでここで羽鳥が出てくるんだよ。
「・・・会ってないよ、てか別に会いたくないし。
「うん・・・」
浮かない顔で千秋は頷いた。原因はわからないが、
「言いたいことがあったらいつでも相談しろよ。じゃあ帰るな」
「ほんとありがと。今度なんか奢るから」
「楽しみにしてる」
少し頭を撫で部屋を後にした。
手にはさらさらした髪の感触が残っている。
そろそろこの関係に我慢できなくなっている自分がいた。
欲しがってしまってもいいのだろうか。
あぁ、これじゃあ羽鳥と一緒じゃねえか。
「・・・仲直りなんかすんなよ」
それから数日後。
あいつらは今までの関係に戻っているようだった。
けれどある日を境に・・・そう。
この数ヶ月で明らかに2人の間の空気が変わっていた。
それは目だ。
とにかく千秋はわかりやすい。好きなものは好き。
その目は羽鳥を見る時、少女マンガの主人公のようだった。
憧れでもあり、それ以上に好きでいて、相手に見て欲しくて、
ーー俺と同じなんだよ。
才能のある千秋が羨ましい時期もあった。
だったら俺はその才能を最大限引き出せるような人間になりたい。
俺の生きる道をハッキリ決めた。
唯一の親友という立場になれて、でももっと傍に行きたくて。
けれど所詮親友は幼なじみに勝てないのか・・・。
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目を覚ますと見慣れた天井が広がっていた。
起きあがる気力も無く、左へ寝返りをうった。
『・・・よくわかんないけど、トリじゃないとダメみたいなんだ』
「っ・・・」
千秋は羽鳥を選んだ。
いや、本当はずっと前から決まってたんだ。
やばい、視界が歪んでいく。
溢れた涙は頬を伝いゆっくり落ちていった。
悔しくて、寂しくて、辛くて、でも。
「好きだ・・・」
それ以上に溢れる好きだという気持ちをどうすればいい?
「ぐ・・・・・っ好きだ、千秋・・・愛してる。好きだ・・・・
止まらないなら流してしまおう。
あいつらの前では死んでも泣いてたまるか。
だから今だけ。
誰も見てない今だけは・・・。
「ぅ・・・っぁ・・・・・あぁァあああああぁっ・・・」
確かめさせてくれ。
俺がどれだけお前のことを好きだったかを。
この涙がきっと証明してくれるから。
「好きだよ・・・千秋」
fin
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