その夜は珍しいものを見た。
「ただいまれふ、きしゃしゃん!」
「・・・・・・おかえり」
ベロベロに酔った雪名皇だ。
今日は久しぶりに雪名と時間を合わせることができたのだが、
運悪くバイト先の子の送別会が入ってしまったらしい。
俺の方がいつもドタキャンばかりしているのだ。
無理に今日じゃなくていい、と言ったのだが・・・、
『俺が今日会いたいんです!』
仕事場で思いっきり顔を赤くしてしまったじゃないか・・・!
まぁ、なるべく早く帰ってくると言っていたため、
結局1人雪名の家で帰りを待つことにした。
にしても珍しいなー。
おぼつかない足下で靴を脱いでいる雪名を見てしみじみと思った。
飲み会にもよく行っているらしいが、
いつも顔色一つ変えずに帰ってくる。アルコールに強いのか、
それともあまり飲まないのか。
こいつと酒を酌み交わしたことが少ない俺にはよくわからない。
「きしゃしゃーん」
普段の倍以上のキラキラオーラを出しながら抱きついてきた。
「お前・・・どんだけ飲んだんだよ」
「んー、いっぱい?これだけ飲んだら、
帰ってもいいって先輩に言われたので・・・がんばりましたー」
それ絶対遊ばれてるだろう。
「無理して急いで帰ってこなくても良かったんだぞ?」
「いやでふ。1秒でも早くきしゃしゃんに会いたかったんでふ!」
「・・・・いいから酔っぱらいは早く寝ろ」
「えーーまだ眠くないですーーー!」
駄々をこねるように服の袖を引っ張ってきた。
子供みたいな姿はかわいいが、
このまま付き合っていたてはらちがあかない。
木佐は雪名の手を離し1人間部屋に戻った。
「待ってくださいーー」
さてどうしたものか・・・。
これじゃあ大人しく寝てくれそうもないし。
ため息をつきながらひとまずベッドに腰を下ろした。
すると、ふらふらついてきた雪名が木佐から見て右側に座った。
気の抜けた笑顔で顔を覗き込んできたかと思うと、
今度は突然悲しそうな顔に変わった。
「・・・・会わなきゃ、意味がないんです」
「何が・・・?」
唐突のことでうまく話が飲み込めなかった。
「俺、
今日木佐さんと会えるって聞いてすごいうれしかったんです。
学校のこととか、
この前読んだ漫画のこととか話したいことたくさんあったんです・
・・。でも日にち変わって今日送別会入っちゃうし」
・・・いまいち話が見えてこない。
それでも雪名は俯きながら言葉を続けた。
「なのに木佐さんは無理しなくていい、って。
俺は無理してでも会いたいんです・・・!
例え先輩達にイッキ飲みさせられようが、
得意じゃないビール飲まされようが、会いたいんです、だから・・
・だから」
イッキ飲みさせられたんだな・・・・。
「まぁ、
遅くなったけど今こうやって会えてるんだからいいんじゃないのか
?」
俺だって会いたかった気持ちは同じなのだから。
「・・・・・はい、そうですね。へへっ、
でもやっぱこれはメールとか電話じゃなくて直接言いたかったんで
す」
「?」
「好きです、翔太さん。大好きです」
「な・・・っな・・何言って、」
「えへへへーー」
何が、えへへへーー、だ!!
顔が熱い。鏡で見なくても絶対今顔が赤くなっているだろう。
しかも不意討ちで名前で呼ばないで欲しい。
「翔太さん、翔太さん」
「っなんだよ・・・」
「眠いです」
は?
それだけ言うと電池が切れたようにパタンっと膝の上に頭を倒して
きた。
いわゆる膝枕状態。
「おっおい!雪名!寝るならちゃんと・・・」
着替えてから寝ろ。
そう言おうと思ったのだが、
あまりに安心しきった顔で寝てるものだから、
どうでも良くなってきてしまった。
大人っぽいと言ってもまだまだ20歳過ぎたばかりだ。
寝ている時の顔なんてますます幼く見せてくれる。
髪を撫でると、まるで猫のように体を少し丸くした。
いつも雪名には年上らしいことができてない。
だから少しうれしかったりもするのだ。
「おやすみ、皇。今日はお疲れさま。俺も大好きだよ」
そう言うと、雪名が少し笑ってくれた気がした。
fin