H.Cである木佐が雪名と出会い、いろんな気持ちを知っていくお話。
それは ある意味 鏡
けれど 俺は濁った 鏡
もう誰も 映さない
愛情なんて 知らない
俺は ハイブリッド・チャイルド
****
今も昔も俺の隣には誰もいない
「てめぇなんて死んでしまえ!」
男に蹴飛ばされ、ひとりの少年がゴミ捨て場に吹っ飛ばされていた。それでも飽き足らず何度も何度も踏みつける。
憎しみの込められた目。罵声。周りは見て見ぬ振り。
あぁ、なんてこの世界は寂しいのだろう。
・・・気付いたら、俺はその男をぶん殴っていた。
「あ・・・すいません。えーっと、この子貰っていきますね!」
自分でも何をしているのかわからなかった。
ただこの子を、助けたかったんだ。
****
ここは・・・どこだ?
目を覚ました俺は知らないアパートで寝ていた。
昨日は確か、俺のことを気に入った男と遊んでやって・・・そうだ。逆ギレされて、殴られて、その後・・・?
「っあ、起きた?」
目の前に現れたのは長身の若い男。
「あんた・・・誰。ここどこ?」
「俺は雪名皇、美大の学生だよ。んでここは俺の家。本当は病院に連れて行こうと思ったんだけど、君がイヤだって言うから・・・、傷痛い?」
病院?そういえば断ったかも。
「別に。ただうまく動かないだけ」
「やっぱ病院行かない?」
「行かなくていい」
見ず知らずの人にそこまでさせるわけにはいかない。それに俺の場合普通の病院では治らないのだから。
「じゃあ名前聞いてもいいかな?」
「翔太」
「?名字は」
名字って、もしかしてコイツ俺のこと人間だと思ってるのか?
「じゃあ・・・木佐」
「じゃあって・・・、歳はいくつ?俺は21だけど」
「30」
「え?」
「30歳。言っとくけど、嘘じゃないから」
・・・信じてないか?
「・・・・・・えぇーー!!ちょっ、童顔にも程があるでしょう!」
「お前それ日本語おかしいから」
信じられないという顔をされたが、すぐ先程の笑顔に戻った。
思わずその笑顔に見とれてしまう。
「そっかぁ。じゃあ敬語の方がいいっスね。よろしくお願いします木佐さん」
・・・何がよろしくなんだ?
それが俺と雪名との出会い。
俺の運命を変えた出会い。
****
雪名は変な人間だった。
怪我の理由も聞かず、帰る場所がない、と言った俺を家に置いてくれた。
優しい人間は怖い。
でも、その顔も 体も 声も 話し方もすべてが愛おしかった。
・・・なんだこの気持ちは?
「木佐さん!ただいまです」
「おかえりー」
学生である雪名は、平日の昼間はほとんどいなかった。その間俺は前より動くようになった体で家事を手伝っている。
「・・・何?」
振り向くと満面の笑みで抱きしめられる。
「木佐さんかわいいなって」
「な どうしてお前は恥ずかしいことばっか言うんだよ・・・!」
きっと言い慣れてるんだ。別に俺だからってわけでは無い。きっとそうだ。
「思ったこと言っただけです」
「・・・・・・はぁぁ」
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、・・・うれしいなって思ってしまう自分がいる。
「ところで木佐さん!明日出かけませんか?」
「?どこに」
「とは言っても、夕食を食べに行くってだけなんですが。バイト先の近くのお店なんですけど、そこすっごい美味しくて、前から木佐さんに食べてほしいって思ってたんです!」
雪名は子供みたいな笑顔で木佐の手をぎゅっと握ってきた。
「いいですか?」
「まぁ、別にいいけど」
断る理由も無いし。
「やった!じゃあ、バイト終わったら迎え行きますね」
「でもバイト先の近くなんだろ?だったら俺が迎えに行くって」
「!!」
なぜか雪名は心配そうな顔であわあわし始めた。
いや、別に初めてのおつかいにいくんじゃねーよ。
「そんな木佐さんかわいいんですから危ないです!」
やっぱりか!
「子供じゃねーんだから大丈夫だよ」
「・・・・・・わかりました。へへっ、楽しみですね」
「・・・ん」
こんな楽しみな約束は初めてだ。
****
俺は待ち合わせ場所である雪名のバイト先に来ていた。とは言ったものの・・・
「30分も早く着いてしまった・・・」
どんだけ楽しみなんだよ俺は。
とりあえず考えるのは止めて、近くのガードレールの上に腰を下ろした。
最近の俺はどこか変だ。
今までならこんな誰かと長く一緒にいることなんて無かったのに。
それに、ずっと胸が痛いんだ。何なんだこの痛みは?
「見つけたぞ、翔太」
「っっ!お前は・・・・・・って誰だっけ?」
目の前に現れたのはスーツを着た30代ぐらいの男。確かに嫌いじゃない顔だが、やばい。素で思い出せない。
「あの夜を忘れたとは言わせないぞ」
どの夜だよ。
「えっと、マジで思い出せないんで。てか俺人と待ち合わせしてんだよ」
するとなぜかその男はニヤリと笑みを浮かべた。
「そいつが今の男ってわけか」
「・・・そんなんしゃねーよ」
「っは、図星だろ。今なら許してやる、俺の所に帰って来いよ」
「意味わかんねーし。てめぇが帰れ!」
だが男は木佐に近づくと、無理やり腕を掴み狭い道に引っ張り込もうとした。
これはマジでやばい。
体さえ治っていればこんなアホ。
「ちょっ マジで離せって」
「お前はただの人形なんだ。どうせその男だって遊びなんだろ」
違う
「昔のお前に戻れよ」
嫌だ
「離せって言ってん「うがぁぁ!!!」
ドスっ!!
目の前を男が飛んでいく。スローモーションみたいに過ぎていく映像が、呼びかけられた声によって色が戻った。
「木佐さん!!」
「雪名?なんでここ」
すべて言い終える前にその大きな腕に抱きしめられていた。
「木佐さんが無理やり連れて行かれるところを見て。・・・心臓 止まるかと思いました」
「・・・心配しすぎだろ。こんなの馴れてるし・・」
「馴れないでください!」
肩を強く掴んで引き剥がされると、恐いぐらいの表情で怒鳴られた。
意味わかんない・・・。
そう思ってると横でもぞもぞと男が動き立ち上がっていた。
「な 何すんだガキ」
しかし雪名のするどい眼光により、怯んだように額に汗を浮かべていた。
「俺は今大事な話をしてるんです。さっさと消えてください。あと、・・・次木佐さんに近づいたらぶっ殺しますから」
・・・・・笑顔でここまで人を恐怖にできるんだな。
男は逃げるように走っていってしまった。
「あ、ありがとな。・・・・・・話聞こえてたんだろ?お前は気付いてないみたいだけど、俺は人間じゃない。ハイブリッドチャイルドだ」
「知ってますよ」
「っっ!?」
雪名はさも当然のように告げた。
「そ そうか」
じゃあ俺が今までどんな生き方をしていたかも気付いてるんだろうな。
あぁ、もう終わりだ。
「なら話は早い、今まで世話になったな」
「は!?何勝手に話進めてるんですか!俺はもっと木佐さん自身を大切にして欲しいだけです」
大切?
こんな汚い体をか?
「俺はなお前に言えないようなことをたくさんしてきた。あの男の言った通りさ。俺はただの人形「それが何だって言うんすか!?」
大きな声にびくっとしてしまう。
「あなたは今ここに生きている。ただそれだけじゃないですか。俺が出会ったのは今の木佐さんです。昔なんてどうでもいい」
雪名はハッキリ言うとまた木佐のことを抱きしめた。さっきとは違う、優しく包むように背中に手をまわした。
「じゃあ教えてくれよ。なんでこんなに胸が痛いんだ?この気持ちって何なんだ?」
「・・・」
そう言うと雪名にこっと笑い木佐の額にキスをおとした。
「それが『好き』って気持ちです、きっと」
「・・・・・・・・・っぷ はははは、お前どんだけ自分に自信あるんだよ」
「木佐さんが無さすぎなだけです」
これが好き。
愛する気持ち。
初めて知った。
「木佐さん」
「?」
「これからは俺がたくさんの気持ちを教えてあげます。だからずっと一緒にいてください」
「・・・・・うん」
いつも俺は1人だった
けれでこれから お前と2人
fin
けれど 俺は濁った 鏡
もう誰も 映さない
愛情なんて 知らない
俺は ハイブリッド・チャイルド
****
今も昔も俺の隣には誰もいない
「てめぇなんて死んでしまえ!」
男に蹴飛ばされ、ひとりの少年がゴミ捨て場に吹っ飛ばされていた。それでも飽き足らず何度も何度も踏みつける。
憎しみの込められた目。罵声。周りは見て見ぬ振り。
あぁ、なんてこの世界は寂しいのだろう。
・・・気付いたら、俺はその男をぶん殴っていた。
「あ・・・すいません。えーっと、この子貰っていきますね!」
自分でも何をしているのかわからなかった。
ただこの子を、助けたかったんだ。
****
ここは・・・どこだ?
目を覚ました俺は知らないアパートで寝ていた。
昨日は確か、俺のことを気に入った男と遊んでやって・・・そうだ。逆ギレされて、殴られて、その後・・・?
「っあ、起きた?」
目の前に現れたのは長身の若い男。
「あんた・・・誰。ここどこ?」
「俺は雪名皇、美大の学生だよ。んでここは俺の家。本当は病院に連れて行こうと思ったんだけど、君がイヤだって言うから・・・、傷痛い?」
病院?そういえば断ったかも。
「別に。ただうまく動かないだけ」
「やっぱ病院行かない?」
「行かなくていい」
見ず知らずの人にそこまでさせるわけにはいかない。それに俺の場合普通の病院では治らないのだから。
「じゃあ名前聞いてもいいかな?」
「翔太」
「?名字は」
名字って、もしかしてコイツ俺のこと人間だと思ってるのか?
「じゃあ・・・木佐」
「じゃあって・・・、歳はいくつ?俺は21だけど」
「30」
「え?」
「30歳。言っとくけど、嘘じゃないから」
・・・信じてないか?
「・・・・・・えぇーー!!ちょっ、童顔にも程があるでしょう!」
「お前それ日本語おかしいから」
信じられないという顔をされたが、すぐ先程の笑顔に戻った。
思わずその笑顔に見とれてしまう。
「そっかぁ。じゃあ敬語の方がいいっスね。よろしくお願いします木佐さん」
・・・何がよろしくなんだ?
それが俺と雪名との出会い。
俺の運命を変えた出会い。
****
雪名は変な人間だった。
怪我の理由も聞かず、帰る場所がない、と言った俺を家に置いてくれた。
優しい人間は怖い。
でも、その顔も 体も 声も 話し方もすべてが愛おしかった。
・・・なんだこの気持ちは?
「木佐さん!ただいまです」
「おかえりー」
学生である雪名は、平日の昼間はほとんどいなかった。その間俺は前より動くようになった体で家事を手伝っている。
「・・・何?」
振り向くと満面の笑みで抱きしめられる。
「木佐さんかわいいなって」
「な どうしてお前は恥ずかしいことばっか言うんだよ・・・!」
きっと言い慣れてるんだ。別に俺だからってわけでは無い。きっとそうだ。
「思ったこと言っただけです」
「・・・・・・はぁぁ」
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、・・・うれしいなって思ってしまう自分がいる。
「ところで木佐さん!明日出かけませんか?」
「?どこに」
「とは言っても、夕食を食べに行くってだけなんですが。バイト先の近くのお店なんですけど、そこすっごい美味しくて、前から木佐さんに食べてほしいって思ってたんです!」
雪名は子供みたいな笑顔で木佐の手をぎゅっと握ってきた。
「いいですか?」
「まぁ、別にいいけど」
断る理由も無いし。
「やった!じゃあ、バイト終わったら迎え行きますね」
「でもバイト先の近くなんだろ?だったら俺が迎えに行くって」
「!!」
なぜか雪名は心配そうな顔であわあわし始めた。
いや、別に初めてのおつかいにいくんじゃねーよ。
「そんな木佐さんかわいいんですから危ないです!」
やっぱりか!
「子供じゃねーんだから大丈夫だよ」
「・・・・・・わかりました。へへっ、楽しみですね」
「・・・ん」
こんな楽しみな約束は初めてだ。
****
俺は待ち合わせ場所である雪名のバイト先に来ていた。とは言ったものの・・・
「30分も早く着いてしまった・・・」
どんだけ楽しみなんだよ俺は。
とりあえず考えるのは止めて、近くのガードレールの上に腰を下ろした。
最近の俺はどこか変だ。
今までならこんな誰かと長く一緒にいることなんて無かったのに。
それに、ずっと胸が痛いんだ。何なんだこの痛みは?
「見つけたぞ、翔太」
「っっ!お前は・・・・・・って誰だっけ?」
目の前に現れたのはスーツを着た30代ぐらいの男。確かに嫌いじゃない顔だが、やばい。素で思い出せない。
「あの夜を忘れたとは言わせないぞ」
どの夜だよ。
「えっと、マジで思い出せないんで。てか俺人と待ち合わせしてんだよ」
するとなぜかその男はニヤリと笑みを浮かべた。
「そいつが今の男ってわけか」
「・・・そんなんしゃねーよ」
「っは、図星だろ。今なら許してやる、俺の所に帰って来いよ」
「意味わかんねーし。てめぇが帰れ!」
だが男は木佐に近づくと、無理やり腕を掴み狭い道に引っ張り込もうとした。
これはマジでやばい。
体さえ治っていればこんなアホ。
「ちょっ マジで離せって」
「お前はただの人形なんだ。どうせその男だって遊びなんだろ」
違う
「昔のお前に戻れよ」
嫌だ
「離せって言ってん「うがぁぁ!!!」
ドスっ!!
目の前を男が飛んでいく。スローモーションみたいに過ぎていく映像が、呼びかけられた声によって色が戻った。
「木佐さん!!」
「雪名?なんでここ」
すべて言い終える前にその大きな腕に抱きしめられていた。
「木佐さんが無理やり連れて行かれるところを見て。・・・心臓 止まるかと思いました」
「・・・心配しすぎだろ。こんなの馴れてるし・・」
「馴れないでください!」
肩を強く掴んで引き剥がされると、恐いぐらいの表情で怒鳴られた。
意味わかんない・・・。
そう思ってると横でもぞもぞと男が動き立ち上がっていた。
「な 何すんだガキ」
しかし雪名のするどい眼光により、怯んだように額に汗を浮かべていた。
「俺は今大事な話をしてるんです。さっさと消えてください。あと、・・・次木佐さんに近づいたらぶっ殺しますから」
・・・・・笑顔でここまで人を恐怖にできるんだな。
男は逃げるように走っていってしまった。
「あ、ありがとな。・・・・・・話聞こえてたんだろ?お前は気付いてないみたいだけど、俺は人間じゃない。ハイブリッドチャイルドだ」
「知ってますよ」
「っっ!?」
雪名はさも当然のように告げた。
「そ そうか」
じゃあ俺が今までどんな生き方をしていたかも気付いてるんだろうな。
あぁ、もう終わりだ。
「なら話は早い、今まで世話になったな」
「は!?何勝手に話進めてるんですか!俺はもっと木佐さん自身を大切にして欲しいだけです」
大切?
こんな汚い体をか?
「俺はなお前に言えないようなことをたくさんしてきた。あの男の言った通りさ。俺はただの人形「それが何だって言うんすか!?」
大きな声にびくっとしてしまう。
「あなたは今ここに生きている。ただそれだけじゃないですか。俺が出会ったのは今の木佐さんです。昔なんてどうでもいい」
雪名はハッキリ言うとまた木佐のことを抱きしめた。さっきとは違う、優しく包むように背中に手をまわした。
「じゃあ教えてくれよ。なんでこんなに胸が痛いんだ?この気持ちって何なんだ?」
「・・・」
そう言うと雪名にこっと笑い木佐の額にキスをおとした。
「それが『好き』って気持ちです、きっと」
「・・・・・・・・・っぷ はははは、お前どんだけ自分に自信あるんだよ」
「木佐さんが無さすぎなだけです」
これが好き。
愛する気持ち。
初めて知った。
「木佐さん」
「?」
「これからは俺がたくさんの気持ちを教えてあげます。だからずっと一緒にいてください」
「・・・・・うん」
いつも俺は1人だった
けれでこれから お前と2人
fin
PR
この記事にコメントする