それは ある意味 鏡
機械でも なく
人形でも なく
持ち主の愛情度合いを反映して 成長する
君は ハイブリッド・チャイルド





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俺には兄弟がいなかった。母の体が弱いため仕方の無いこと。寂しいと思ったことは無いが、ある日父が同じ歳ぐらいの少年を連れてきてくれた。人間だと思った彼はハイブリッド・チャイルドで、それが千秋との出会いだった。


あれから20年近く、楽しい時も悲しい時もずっと一緒に過ごしてきた。ただ1つ変わったことは俺が幼なじみの千秋を恋愛感情の好きになってしまったことだ。もちろん千秋は気付いてはいないし、言うつもりもなかった。けれどハイブリッド・チャイルドである柳瀬が千秋を好きだと知って、気持ちが抑えられなくなってしまった。
そして、ついに言ってしまったんだ。


「お前が好きだ」

「?俺もトリのこと好きだよ」
予想通りよくわからないという顔をされた。
「そうじゃなくて、幼なじみとか家族とかすべてを抜きにして1人の男してお前の事が好きなんだ」
そう言って冷たい唇に無理やりキスをした。

ドンっ!
気が付くと俺は体を突き飛ばされていた。
「え あの、ごっごめん。そうじゃなくて・・・俺っ」
千秋の瞳に大粒の涙が溢れ出す。
「ち ちあ「用事思い出した!!」
声をかける間もなく家を飛び出していってしまった。俺は最低なことをしたんだ・・・。





****

トリにキスされた。
なんで?
だって俺たちは幼なじみで家族みたいなもので。
それに俺は男だし。
人間でもない。
なのになんで涙が止まらないんだ?
突き飛ばした時、明らかにトリは傷ついた顔をした。あんな顔初めて見た。
わかんないよ・・・トリぃ。

いつの間にか千秋は近くの土手まで来ていた。走って上がりきった息を整える。
「あ、 ここ」

そこは羽鳥と初めて2人で遊んだ場所であり、初めて笑ってくれた場所だった。羽鳥は無表情とまでは言わないが、あまり感情を面に出さない性格だった。
「初めて会ったときも、何考えてるかよくわかんなかったっけ・・・」
けれどハイブリッド・チャイルドのくせに失敗ばかりな俺をいつも励ましてくれた。
俺じゃなきゃ嫌だと言ってくれた。
それが、本当に うれしかったんだ。
ーーーなのに

トリのことは好きだ。大切だ。
でもこれは同じ気持ちなのかはわからない・・・。
胸が痛い、痛いよ。



「千秋!」



「っ!・・・あ ぐすっ、と・・・とり」
そこには千秋以上に息を切らし、走ってくる羽鳥の姿が映った。
「はぁ・・・はぁ、やっぱり ここにいたか」
「え、あ うん・・・」


「・・・悪かった」


突然の謝罪につい間抜けな声を出してしまった。
「へ・・・」
「さっきのことは忘れてくれというのは都合のいい話かもしれないが、もう気にしないでくれ」
「な なんで・・・?」
「・・・お前を、泣かせたくないんだ」
辛い顔をしているのはトリの方なのに。
なんで俺のことばっか考えるんだよ。

「・・・俺は来週には家を出ていく。お前にはお袋の世話を頼んだぞ」
「っ!な 何勝手に決めてんだよ!?それに一人暮らしするなら俺も」
「お前は親父が連れてきたハイブリッド・チャイルドだろ。俺には関係ない」
何だよそれ・・・。
確かに俺はおじさんが連れてきたけど、羽鳥の世話役でもあるんだぞ。
いやだ、トリと一緒にいられないなんて。それだけは!
「嫌だ」
「・・・千秋」
「嫌だ・・・嫌だ嫌だ!おまえと離れるなんて、俺は・・・っう ぐす」
羽鳥は千秋に触ろうと腕を伸ばすが、ぎゅっと手に力を加えそれを下ろす。
「頼む、泣かないでくれ」
「止まんねえんだから仕方ねーだろ!」
わからない。
なんでこんな涙が出るんだよ。
なんでこんな体が熱いんだよ。
胸がぎゅうっと締め付けられて、痛くて、苦しくて。でも、ただ言えることは。


これからもずっと一緒にいたい。


「・・・教えろよ」
「え?」
「いつもわからないことを教えてくれたのはトリだろ。だからこのモヤモヤの正体も教えてくれよ」
「・・・」
「もう1回、キスしてみろ」
それできっとわかる。
「・・・・・・・・・わかった」
少し震えたトリの手が頬に触れる。こいつも緊張してるんだ。そう思ったときには俺の唇は塞がれていた。
「・・・っん」
違和感なんて何も無い。
こうするのが当たり前のような、そんなキスだった。ゆっくりと羽鳥の顔が離れていく。
「・・・千秋?」
「俺、さっきからトリのこと考えると胸が痛いんだ。でも顔を見ると安心するのに、苦しくて・・・これって何?」
「・・・同じだよ。俺も会えないのは寂しいはずなのに、お前のことを考えると胸が痛い」
「同じ・・・」
まだこの気持ちが何なのか全部わからないけど。

持ち主の愛情度合いに反映して成長する
それがハイブリッド・チャイルド

「・・・・・うん。俺も好きだよ、トリ」

お前がくれたこの愛情が きっと答えなんだ





fin