ふと思うことがある


もしあの時変な勘違いをしないでずっと先輩と一緒にいられたら、どうなっていただろうか


プレゼントを考えて
誕生日お祝いして
どこかに出かけて
本の感想言いあって

それはきっと
とても幸せな時間だったに違いない

たとえ途中で先輩が引っ越してしまったとしても、もっと一緒にいれたのに




「ごめんなさい」




誰もいない部屋で呟いてしまう
消えそうな小さな声
でもそれは大きな後悔


ーーでも

もしこの出会いが償えるチャンスなら、俺はどうすればいいですか?

またあなたを好きになってもいいですか?

また・・・笑ってくれますか?



****

「高野さん!まだ一之瀬先生のネーム貰ってないんですか!?」
「うっせーな、イライラするから連絡とってねーし」

子供か!?

「ま、あの人なら大丈夫だろ」
「・・・はぁぁ」
スケジュールを管理するこっちの身にもなって欲しい。

「何お前さっきから溜め息ばっかついているわけ?」
「全部あなたのせいです」
「そりゃどうも」

本当は、今朝見た夢のせいである。学生の頃の夢を見た次の日はどうも体調がよくない。

「どこか具合でも悪いのか?」
「っ!」
そう言って俺の頭をなでる大きな手。
あの頃と変わらない。
いつだってこの人は優しい。
どうしてこうなってしまったんだろう。
なんで俺は素直になれないんだろう。

「おい、お前・・・何泣いてるんだよ」

いつの間にか大粒の涙が俺の頬を伝い落ちていた。

「・・・なんででしょう、わかりません」
「・・・律?」
「わかんないんです。気持ちがぐちゃぐちゃして、自分の事なのに・・・」

涙が足下に落ちていくの見ていると、突然高野さんに手を引かれ編集部をあとにする。引かれるままついて行くと小会議室に押し込まれた。
「高野さんっ」
包み込むように抱きしめられる。
暖かい。

「悪い。俺にはなんでお前が泣いているか分からないんだが・・・笑って くれないか?」
「・・・」
「お前に泣かれるとどうしていいかわからないんだ。それに、俺はお前の笑顔が好きだから」
「じゃあ・・・高野さんも笑ってくれますか?」
そっと顔を覗き込む。
「・・・お安い御用で」
ふっ、と微笑むと小野寺の額にキスをした。




あなたが泣くのなら 俺も泣きます


「じゃあ次はお前の番」


あなたが笑うのなら 俺も笑います


「ふぇっ! えっと・・・」


あなたが愛してくれるのなら 俺も・・・俺も、


「こうですか ね、へへ」


あなたを 愛します。
だって好きだから。
あの頃から何も変わらない。
ただ1つ気持ち。


だから、
今はただ このぬくもりをずっと感じていたい。




後悔の先は  笑顔



fin