マンガの資料で卒業アルバムが見たくなった俺は実家に来ていた。

久しぶりに息子が帰ってきたというのに、両親は旅行中で、妹は友人の家に泊まってるらしい。
逆に留守番を頼まれる始末だ。

「ほんと、俺に対する扱いがひどいよなー」

仕方なく1人で自分の部屋に向かう。本当はトリも一緒に来る予定だったけど、行く途中で高野さんからの電話が入って仕事に向かってしまったのだ。
すぐ帰ってくると言っていたけど、つい意地を張って「帰ってくるな!」と言ってしまった。
・・・トリが悪いんだからな。
いっつも仕事ばっかり優先して。
・・・って、


「なんだこの乙女思考は!?」


そうだ、あんなやつのことは忘れてさっさと目的を果たそう!

吉野は自分に言い聞かすと、なぜか誰も使っていないはずなのに散らかった自分の部屋に入った。




「えー・・・っと、卒アルは・・・・・・どこだ?」
部屋を探し回ること10分。やっとのことでダンボールに入った卒業アルバムを見つけ出した。
「あれ、結構あるんだな」
高校のだけを見る予定だったが、小中学校や幼稚園、お袋が作ったであろうアルバムも入っていた。
つい他のものに目がいってしまう癖で、一番古そうな物を手に持つ。




『元気に生まれました!』

お袋の字で書かれたかわいい吹き出し付きの写真は、俺が赤ちゃんの時のだろう。
「ははは、ちっせー」


ページをめくる。


家で昼寝をしている姿。
けどその横には・・・、
「トリ・・・?」
白い布団の上で気持ち良さそうに寝ている2人は、隣にあった手をぎゅっと握っていた。
こんな小さい頃から一緒にいるんだよな。
やばい、何かニヤけてきた。


またページをめくる。


少し大きくなった2人。
公園で転んだのか、泣いてる俺をトリが必死にあやしている写真だった。
「どんな写真撮ってんだよ・・・」


どの写真を見ても俺の隣にはトリがいる。
何をするにも一緒で、それが当たり前で。

「・・・でも、この頃からトリは俺のこと好きだったんだよな」

ずっと気付いてやれなかったトリの本当の気持ち。


『気付かれないようにしてた』


平気そうに言ってたが、きっとそれはとても辛かったに違いない。
なのにいつも俺のことを助けてくれて、守ってくれて。
俺、こいつに貰ってばっかだよな・・・。


アルバムを閉じると、そのままゴロンと床に寝転んだ。久しぶりの実家の匂いを吸い、大きく溜息をつく。


なんで気付いてやれなかったんだろう。


そんなことを後悔したって意味がないのはわかってる。でもトリと恋人な関係になってから、こうやって昔のことを考えると胸がもやもやしてしまう時がある。
「あーーー、・・・自分がムカつく」
そんな声も部屋に虚しく響くだけだった。


現実なんて漫画みたいにうまくいかない。
だからこそ失敗して、後悔して、次へと頑張っていけるんだ。
わかってる。そんなこと、わかってるけど・・・。

「早く帰って来いよ」


ガチャ

突然のドアの開く音に驚いた瞬間、頭に衝撃が走る。
「痛ってえぇぇぇぇ!」
「っ!おい、何でドアの真ん前で寝てるんだお前は!」
羽鳥が開けたドアの先が、思いっきり吉野の頭にぶつかったのだ。
「あっ 頭割れるかと思った・・・」
「その位で割れるか。まぁ、悪かった。大丈夫か?」

でも、心配はしてくれるんだよな。

「・・・大丈夫じゃない」
「大丈夫そうだな」

ムッとしながらもだらだらと膝立ちをし、羽鳥の袖を引っ張った。
「?何だ」
羽鳥が怪訝そう顔をしなからしゃがむと、吉野はそのまま首に手をまわし抱きついた。
走ってきてくれたのだろうか、少し汗ばんだシャツの感触を感じる。
「・・・・・・どうした?」
優しい羽鳥の声が鼓膜を揺らす。それだけで体の力が抜けてしまうから不思議だ。
「んー・・・、なんか。・・・ごめんな」
「突然なんだ」
「ごめん」
困ったような顔をするが、吉野の顔を見るとあやすように頭を撫でた。

あの写真と同じだ。


「アルバム見てたのか?」
「・・・ちょっとは。でも1人で見てると寂しいから、後でトリも一緒に見て」
「わかった。じゃあ今日は昼飯も早かったし、そろそろ腹減ったか?」
「・・・うん!」
吉野が嬉しそうに笑うと、羽鳥も顔をほころばせた。
ぽんぽんと俺の頭を叩き羽鳥は立ち上がった。
「じゃあ買い物でも行くか。吉野、お前何たべ「トリ」
「・・・何だ?」


「トリはさ、今・・・幸せ?」


何を聞いてるんだろう、でもなぜか口から出てしまったのだ。
羽鳥は驚いたような顔をしたが、ふっと笑うとゆっくりと俺に近づき、おでこにキスをした。
「まるで夢だと思うぐらい 幸せだ」
「そっか。・・・へへへ、っあ俺ハンバーグ食べたい!とろとろの目玉焼きのせろよな」



過去のトリの辛さも、悲しさも、今の俺にはどうしてやることもできない。



「はいはい」



今だって、何かを返せてるわけじゃないかもしれない。それでも、好きっていう気持ちは負けてないつもりだ。



「あー、考え事したら腹減った。めしめし~!」



ありがとな、トリ。
でも、今度は俺が何倍もお前のことを想うよ。



「その前に買い物だ。ほら行くぞ」
「はーい」



覚悟しとけよな!







後悔の先は ご飯?



fin