千秋と千夏のお話。
*トリチアのくせに羽鳥がでてきません、ごめんさい。
*トリチアのくせに羽鳥がでてきません、ごめんさい。
その日はいつにも増して平和な日だった。
目覚ましより前に目を覚まし、いつもは失敗する目玉焼きも綺麗に焼けた。
昼にやったネームの打ち合わせもめずらしくトリに褒められ、しっかり夕飯の約束もできた。
家に帰ってもいい具合にペンが進み、締め切りも余裕で間に合う状態。
「へへへっ、なんか今日の俺すごくね」
天気も快晴。
昼寝ができるぐらいの有り余った時間。
平和!平和って素晴らしい!
・・・・・・と、間抜けな顔をしている吉野千秋 29歳。
でも彼に平和なんて与えたら、世の中漫画と昼寝とトリのご飯だけになってしまう。
そして、ーーー嵐はやってきた。
「お兄ちゃん!私今日からここに住むから!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
****
「はぁぁあぁぁぁあ!?お前何言って・・・てかなんでここに来てんだよ!!」
仕事場のドアを開けて入ってきたのは妹である吉野千夏。
ラフな服装で手にはバカデカい荷物を持っていた。ドスンと音を立てながらそれを床に下ろす。
上着を脱ぎ捨て手近な椅子に座った。
「あーーーもうムカつく!!!!」
「・・・お前人の話し聞いてんのか」
「うるさい!!」
これは相当怒ってるなと思い、吉野はひとまずペンを置き原稿をしまった。スーっと椅子を滑らせ千夏に近づく。
「お袋とケンカでも・・・した?」
「・・・・・・・・・それも」
ということは他にも原因はあるってことか。
「じゃあ仕事?」
「・・・それも」
「失敗でもした?」
「・・・」
千夏は黙りこむと、椅子の上で体育座りをし顔をうずめてしまった。
「・・・・・・・・・・・あの ね、同じ仕事場の人が・・・ね、私が上司に色目使ってるとか難癖つけてきて、でもその人先輩だから変に言えないし。・・・しかもそれで落ち込んでるのにお母さんは帰るたびに、いい人いないの?、とか言ってきて、いい加減にしてよ・・・」
さすがお袋・・・、空気読まないなー・・・。
「好きな人ぐらい自分で見つけるし、今は仕事に集中したいんだもん。でも、なんで・・・・・・なんでうまくいかないの。もう疲れたよ」
顔は見えないけど、その声はきっと泣いていた。
千夏は昔から嫌なこととかを溜める癖があった。
誰かに相談したり、いつもみたいにハッキリ言えばいいのに、人に気を使って。それで自分の中がいっぱいいっぱいになって、突然泣き出してしまうことも多々あった。
そんな時は俺がよく慰めたっけ。
・・・まぁ半分ぐらいは八つ当たりされてたけど。
吉野はまた椅子を滑らせて自分の机に戻った。白紙の紙を出しシャーペンを握った。
あの頃を思い出して。
****
『うぇぇぇええん、おにいちゃーーん!』
『ちなつ!?どうしたんだよ』
『っう、ぐす おにんぎょうさんこわれちゃった~』
『あ、腕とれちゃったんだな・・・。だっだいじょうぶだって、おかあさんに聞けばなおるかもしれないし』
『う~~・・・』
『なくなよー、そうだ!ちょっとまってろよ・・・』
『?』
『・・・・・・できた!はい、これ』
『ぐすっ なにぃ?』
『ちなつの絵。ほら、ちなつはこの絵みたいにわらわなきゃ!』
『・・・えへへっ、おにいちゃんのえじょーずたね』
『よし!じゃあつぎはなにをかく?』
『んとねーんとねー』
****
「千夏ー」
「・・・・・・・・・ん」
肩を揺らし泣き疲れて眠っていた千夏を起こした。
「あれ・・・、なんか・・・・・・夢見てた気がする」
「?このままだと風邪ひくぞ。外も結構暗くなってきたし」
「うん・・・」
目をこすりながら立ち上がろうとする千夏にの前に1枚の紙を突き出した。
「・・・なにこれ」
「千夏の絵。子供頃さ、千夏が泣いたときよく絵描いてやったじゃん。それ思い出して」
そこには笑っている千夏の顔が描いてあった。
「・・・・・・私・・・こんなに綺麗じゃないよ」
ぷいっと顔を逸らしながら絵を受け取る姿につい笑ってしまった。
「千夏は綺麗だよ。だって俺の自慢の妹だからな」
そう言って自分と似た髪質をサラサラと撫でた。
「・・・なんでお兄ちゃんは結婚できないんだろうね?」
「失礼だな」
「というか、なんかお兄ちゃんの間抜けな顔見たらバカらしくなってきたよ」
「もっと失礼だなおい!」
あははは、と千夏は笑いぴょんっと椅子の上を飛び降りた。
「私帰るよ」
「え、いいのか?帰ったらお袋だっているのに」
心配してのことなんだろうけど、あの小言にはさすがに疲れるだろう。
「今さらあの人の性格なんて変わんないでしょ、それにやっぱ心配かけたくないしさ」
「・・・じゃあせめて飯食ってかない?もう少ししたらトリが来て作ってくれるし」
「芳雪くんの手作り!?」
ぱっと目の色が変わり少し微妙な気持ちになってしまうが、まぁ今日はぐらいはいいだろ。
「よし、それまでテレビでも見てようぜ」
「っあ お兄ちゃん!」
「ん?」
呼び止められて振り返ると、一瞬あの頃の姿と重なった。
絵を前につきだし、とびっきりの笑顔で口を開いた。
「絵、ありがとね!」
「おう」
あんなに小さかった身長はいつの間にか俺と近い目線になっていた。
あんなに泣き虫だったその表情はいつの間にか大人びた顔になっていた。
でも俺を呼ぶその声は変わらない。
あの頃と同じように、いつでも呼んでくれ。
ーーーだって俺はお前のお兄ちゃんなんだから。
fin
目覚ましより前に目を覚まし、いつもは失敗する目玉焼きも綺麗に焼けた。
昼にやったネームの打ち合わせもめずらしくトリに褒められ、しっかり夕飯の約束もできた。
家に帰ってもいい具合にペンが進み、締め切りも余裕で間に合う状態。
「へへへっ、なんか今日の俺すごくね」
天気も快晴。
昼寝ができるぐらいの有り余った時間。
平和!平和って素晴らしい!
・・・・・・と、間抜けな顔をしている吉野千秋 29歳。
でも彼に平和なんて与えたら、世の中漫画と昼寝とトリのご飯だけになってしまう。
そして、ーーー嵐はやってきた。
「お兄ちゃん!私今日からここに住むから!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
****
「はぁぁあぁぁぁあ!?お前何言って・・・てかなんでここに来てんだよ!!」
仕事場のドアを開けて入ってきたのは妹である吉野千夏。
ラフな服装で手にはバカデカい荷物を持っていた。ドスンと音を立てながらそれを床に下ろす。
上着を脱ぎ捨て手近な椅子に座った。
「あーーーもうムカつく!!!!」
「・・・お前人の話し聞いてんのか」
「うるさい!!」
これは相当怒ってるなと思い、吉野はひとまずペンを置き原稿をしまった。スーっと椅子を滑らせ千夏に近づく。
「お袋とケンカでも・・・した?」
「・・・・・・・・・それも」
ということは他にも原因はあるってことか。
「じゃあ仕事?」
「・・・それも」
「失敗でもした?」
「・・・」
千夏は黙りこむと、椅子の上で体育座りをし顔をうずめてしまった。
「・・・・・・・・・・・あの ね、同じ仕事場の人が・・・ね、私が上司に色目使ってるとか難癖つけてきて、でもその人先輩だから変に言えないし。・・・しかもそれで落ち込んでるのにお母さんは帰るたびに、いい人いないの?、とか言ってきて、いい加減にしてよ・・・」
さすがお袋・・・、空気読まないなー・・・。
「好きな人ぐらい自分で見つけるし、今は仕事に集中したいんだもん。でも、なんで・・・・・・なんでうまくいかないの。もう疲れたよ」
顔は見えないけど、その声はきっと泣いていた。
千夏は昔から嫌なこととかを溜める癖があった。
誰かに相談したり、いつもみたいにハッキリ言えばいいのに、人に気を使って。それで自分の中がいっぱいいっぱいになって、突然泣き出してしまうことも多々あった。
そんな時は俺がよく慰めたっけ。
・・・まぁ半分ぐらいは八つ当たりされてたけど。
吉野はまた椅子を滑らせて自分の机に戻った。白紙の紙を出しシャーペンを握った。
あの頃を思い出して。
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『うぇぇぇええん、おにいちゃーーん!』
『ちなつ!?どうしたんだよ』
『っう、ぐす おにんぎょうさんこわれちゃった~』
『あ、腕とれちゃったんだな・・・。だっだいじょうぶだって、おかあさんに聞けばなおるかもしれないし』
『う~~・・・』
『なくなよー、そうだ!ちょっとまってろよ・・・』
『?』
『・・・・・・できた!はい、これ』
『ぐすっ なにぃ?』
『ちなつの絵。ほら、ちなつはこの絵みたいにわらわなきゃ!』
『・・・えへへっ、おにいちゃんのえじょーずたね』
『よし!じゃあつぎはなにをかく?』
『んとねーんとねー』
****
「千夏ー」
「・・・・・・・・・ん」
肩を揺らし泣き疲れて眠っていた千夏を起こした。
「あれ・・・、なんか・・・・・・夢見てた気がする」
「?このままだと風邪ひくぞ。外も結構暗くなってきたし」
「うん・・・」
目をこすりながら立ち上がろうとする千夏にの前に1枚の紙を突き出した。
「・・・なにこれ」
「千夏の絵。子供頃さ、千夏が泣いたときよく絵描いてやったじゃん。それ思い出して」
そこには笑っている千夏の顔が描いてあった。
「・・・・・・私・・・こんなに綺麗じゃないよ」
ぷいっと顔を逸らしながら絵を受け取る姿につい笑ってしまった。
「千夏は綺麗だよ。だって俺の自慢の妹だからな」
そう言って自分と似た髪質をサラサラと撫でた。
「・・・なんでお兄ちゃんは結婚できないんだろうね?」
「失礼だな」
「というか、なんかお兄ちゃんの間抜けな顔見たらバカらしくなってきたよ」
「もっと失礼だなおい!」
あははは、と千夏は笑いぴょんっと椅子の上を飛び降りた。
「私帰るよ」
「え、いいのか?帰ったらお袋だっているのに」
心配してのことなんだろうけど、あの小言にはさすがに疲れるだろう。
「今さらあの人の性格なんて変わんないでしょ、それにやっぱ心配かけたくないしさ」
「・・・じゃあせめて飯食ってかない?もう少ししたらトリが来て作ってくれるし」
「芳雪くんの手作り!?」
ぱっと目の色が変わり少し微妙な気持ちになってしまうが、まぁ今日はぐらいはいいだろ。
「よし、それまでテレビでも見てようぜ」
「っあ お兄ちゃん!」
「ん?」
呼び止められて振り返ると、一瞬あの頃の姿と重なった。
絵を前につきだし、とびっきりの笑顔で口を開いた。
「絵、ありがとね!」
「おう」
あんなに小さかった身長はいつの間にか俺と近い目線になっていた。
あんなに泣き虫だったその表情はいつの間にか大人びた顔になっていた。
でも俺を呼ぶその声は変わらない。
あの頃と同じように、いつでも呼んでくれ。
ーーーだって俺はお前のお兄ちゃんなんだから。
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