「ん~、こんなもんか」
吉野は椅子に座ったまま手を上にあげ体を伸ばした。
集中して描いていたからか少し肩が重い。
でも今回は予定よりもネームが早く終わり、後はもう1度羽鳥にチェックを貰うだけである。
「きっと驚くだろうな~」
ぎゃふん作戦はもう無理だけど、少しは褒めて・・・くれるかな。
って、何かそれじゃあ本当に俺トリの子供みたいじゃんか・・・。
「別に寂しくなんかねーし」
くるくると椅子を回してみてもトリが早く来るわけでもない。
なんか飲み物とってこ。
そう思い席を立つと、玄関から聞き慣れた足音が響く。
あ、来た・・・。
でもこれじゃあ出迎えてるみたいだよな・・・?
あわあわしながら座るかどうするか迷っていると、ガチャリとドアが開く。
「・・・何してんだ」
「・・・・・・なんでもない」
羽鳥には誰もいない部屋で変に突っ立てるように見えただろう。
「そうだネーム、出来たんだけど・・・」
「あぁ。でもその前に話があるからこっち来い」
羽鳥はそれだけ言うとどこか怒ったような表情でリビングへ行ってしまった。
俺、また何かしたのか・・!?
でも締め切りはまだだし。
なんとか重い足を動かし羽鳥の後に続いた。でも隣に座るのは怖かったので、1人分間をあけて横に座る。
「あの、話って・・・」
「お前昨日、ブックスまりもに行ったか?」
「え、うん」
「・・・そこで、サイン付きイラストを描いたってのは本当か」
「~~っっ!?」
なななっなんでバレてんだよー!!
「はぁぁー、その顔は本当だな」
「っあ え、その・・・・・・ごめんなさい」
羽鳥はもう1度ため息をつくと、なぜか俺の頭を撫でてきた。
「いや、別に怒ってるわけじゃない。お前なりのファンサービスだと思うし、書店の方もすごい喜んでくれていた」
「・・・うん」
「でもな、お前が正体を隠したいって言うから俺たちも細心の注意をはらっているんだ。自分から危ないことはなるべくしないでくれ」
・・・そうだよな。
俺の勝手でたくさんの人に迷惑かけてるんだし、自分から正体をバラすようなことはやっぱダメだったよな・・・。
「そう暗い顔するな、別に誰に見られたわけでもないんだし。で、昨日の事と今回のネームの早さは関係あるんだろ」
「!?」
何で分かるんだろう。
・・・でもやっぱそれは、トリだから、てことか。
「おう」
なぁトリ、聞いてくれる?
俺 昨日すごい良いことがあったんだよ。
fin